アーカイブ

私の存在を付与する

猫のように身をかがめてフロアに入った。しかし見渡しても二人の姿はない。フロアは大きい。どこかの床に二人は横になっているのだろう。けれどあえぎ声はまるで小さな箱のなかから聞こえてくるように反響している。小さな箱?そう思ってフロアを見渡すと、片隅にロッカーがひとつある。長方形のスーツやコートを仕舞うグレーのロッカーだ。もしやこのなかで抱き合っているのかもしれない。そう思い、ロッカーに近づく。近づくほどに確信する。二人はロッカーのなかで性行為に夢中なのだ。ロッカーに右耳をぴったりとつけ、なかの音を聞く。男女のあえぎ声。そして物音。どうしてこんな場所で抱き合うのかは私にはわからない。その時、ふとロッカーの前に鍵が落ちていることに気づく。鍵?これはどこの鍵?もしこのロッカーの鍵だとしたら私は二人を閉じ込めることができる。そう思い、鍵穴にそっと差し込んだ。鍵はすんなりと鍵穴に入り、くるりと回転する。微かな音とともに鍵が閉まった。